ふるさと壁画 プロジェクト

(左から吉村さん、東海林さん、松田さん)

金山町が地域の活性化・文化の保存を目的として掲げる「町並み作り100年計画」に繋がるプロジェクトとして、平成21年度から実施している壁画制作。

平成25年度、制作に携わるのは山形大学地域創造文化学科4年 東海林 美幸さん、松田 耶々湖さん、吉村 有以さん。

中田小学校が138年の歴史に幕を閉じ廃校となることから、彼女たちが壁画として残すことに決めたのは、子供たちの記憶でした。

壁画制作に没頭するなかで、金山町や中田地区の人々、そして子供たちとのふれあいの中で感じたことや体験を彼女たちの言葉で語ってもらいました。

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―金山町、中田地区の印象は?

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松田:
 自然が豊かな場所で、子供たちが素直で元気に育っているなというのが第一印象です。街の住宅・住居が揃っていて、そういう景観を残していく取り組みや、そこに関わる文化とかも大事にしているんだなと感じました。
吉村:
 私は以前、先輩のお手伝いで同じような壁画プロジェクトにお手伝いで来させて頂いたことがあり、それが金山町に最初に来たきっかけです。その時に、地元の人とお話する機会があったんですが、都会に比べて地域の方との距離が近く、あったかいなと思いました。
東海林:
 「僻地によく来たね」って言われるんですが、私の地元も山々に囲まれた町並みがとても似ていて、親近感がありました。町の人たちもこの地区の方々もフットワークが軽く、とても元気な印象を受けました。

―制作をするなかで、印象に残った出来事は?

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松田:
 子供たちや地元の方が見に来てくれて、知っている風景や場所が描いてあると喜んでくれたり、壁画に描いたその場所での思い出を語ってくださる方もいました。そういう話を実際に聞くと、やっぱり描いてよかったなと、自分たちが描いた絵を見て喜んでくれるって言うのが嬉しかったです。来てくれる度に「頑張って」とか声を掛けてくださり、それがすごく励みになりました。
 それに、差し入れに栗とかお煎餅とか、チョコレートまんじゅうとか(笑)を持ってきてくださったりして本当にありがたかったですし、本当に応援してもらっているんだなと実感しました。
吉村:
 私は“絵を描く”という事は、個人作業という意識があったので、3人で協力して描くという事自体が面白い体験でした。作業中に、私が描いている似顔絵を子供たちが見に来て「これは○○ちゃんだ~」とか「うわっこれ誰?全然似てないね」なんて言われたり(笑)。
 自分の中では似ていると思うんだけどなぁと思いながら、「そっかぁ、どこが似てないか教えてくれる?」なんて聞いたり。そこで暮らす人と意見や談笑を交わしながら作業ができたことが、すごく良い影響になりました。
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東海林:
 子供たちが現場に来れば危なくならないよう気を使ったり、勝手に絵の具を触ったりするので面倒を見ながら作業をしなければならない事もあって、正直、面倒くさいなと思うこともありました(笑)。
 でも、子供たちと顔を合わせる機会が1、2回じゃ無くなってきて、回数が増えていくたびに遠慮なく叱れる関係になっていたり、面倒くささや煩わしさも含めて自然に一緒にいることが楽しさになりました。
 これは壁画を描かなければ経験出来なかったことで、そういう交流が無ければ、鮮やかな色合いや表現にはならなかったんじゃないかなと思います。

―壁画制作にあたり、大変だったことは?

吉村:
 大きな企画を運営すること自体が、自分にとってもプラスになれたかなと思っています。ただ、今回の題材が似顔絵ということで、私が普段描いているものと全く違うので大きな不安でした。子供たちと交流している時も、“この子たちの似顔絵を描けるのだろうか”というプレッシャーがものすごくありました。
 でも、子供たちからやる気をもらってしまったなと感じることが多くて。自分のためにも「やってやる」という気持ちが湧いてきたことを実感し、人物画を描くという挑戦を通して成長させてもらったと思います。
東海林:
 何より天気予報が大事! ストーブを入れてもらってからは、雨の日でも描けるようになったんですが、それまでは朝ここに来て描こうと思ったら壁全面が結露で……。絵具やペンキをのせても流れてしまい何にもしないで帰っちゃうということもありました。日頃、天気を気にして絵を描いたことがなかったので、屋外で絵を描く難しさというのを知りました。
松田:
 あとは、この3人だと何かアクシデントがあっても全部笑いになっちゃうところがあるんです。
 虫が多くてそれで騒いで、そういう事がなぜか面白いとか(笑)。

―子供たちや地区の人たちとのふれあいと通して生まれた表現とは。

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松田:
 壁画を描くにあたり、子供たちに「思い出の場所や、好きなところはどこ?」って聞いたんですが、子供たちはパッと答えてくれたんです「○○君ん家の裏庭のあそこがキレイだよ」とか。自然の中だと、どこも同じだって言う人もいるかもしれないけれど、共通でみんなが大好きな場所が中田地区や金山の町にはあるんですね。
吉村:
 私の小学校はひと学年8クラスぐらいある学校だったので、いろんな学年が一緒に行動出来るというのは、私にとってはすごく新鮮でした。
 学校で交流会を設けてくださったり、子供たちが制作現場に遊びに来てくれたことが、自分にとってもいい影響だったかなと思っています。絵を描きながら、「この子は、ああいう喋り方だったな・・・」とか考えながら描くのがすごく楽しかったです。
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東海林:
 最初は渋めな色合いで壁画を描いていく予定だったんです。ところが、中田の子供たちと接してみて引っ張り回されるぐらいすごく元気で、壁画を描いているうちに落ち着いた色合いが似合わないなと思い始めました。それでも特に意識してという訳ではなく、自然に明るい鮮やかな色合いを使っているなと……質問されて初めて気づいたことですね。
 子供たちの他にも、近所のおじいちゃんやおばあちゃんも見てくれますし、町の職員の方々も送り迎えをしてくださったり、寒ければヒーターを入れてくれたり。それに、中田地区をまとめてくださっている方が「ぜひ山形大学の壁画を描いている子たちと交流がしたい」と交流会を企画してくださったりして。中田小学校で一日特別授業を受けたこともありました。
 それでも、私たちからすれば描く場所をいただいて、町の方々から見れば「描いてもらっている」になるのかもしれません。
 そのこと自体は持ちつ持たれつというか、自然とそういう風になってしまうのかもしれません。
 でも、こういう事業というのは、まず地元の方が興味を持ってくれなければ成立しないし、積極的に興味を持って歩み寄って来てくれるからこそ、私たちもその気持ちにのって、あがっていけるのだと思います。
 だからこの事業を通じて、“常に勉強させてもらっているし、成長させてもらっている”と思うんです。

―今後の目標は?

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吉村:
 壁画を完成させた事で、地区と人に対してどんなことが出来たか。また、制作を通して経験したことなどを、他の人に上手く伝えたいですね。
東海林:
 仕事でも趣味でもいいので、一生美術に関わっていけたらいいなと思っています。経験もまだまだなので形にこだわらず、やりたいことをやって美味しいものを食べて、一生かけて目指すものを見つけたいです。
松田:
 この地域の雰囲気が自分の地元と似ているところがあると感じていて、この事業を通して自分の地元に対して考えるようになりました。これからは自分の地元にも貢献出来ることをやりたいと考えています。

学生たちが金山町の“いま”を描くことにより、“人々の繋がりが絶えず未来に伝える”このプロジェクトは、まだ始まったばかり――。

「町並み作り100年計画」の大事な1ページが加わる瞬間でした。